昭和13年9月製作の3.5寸将棋盤
平井の将棋盤は非常に珍しい作品で、本来碁盤師にとって将棋盤の製作はあまりしなかったようです。
本作品はカヤ材の木裏取り盤となりますが、年輪が細かい為に天面は一見柾目のように見えます。
おそらく平井は本カヤ材を入手したが碁盤には寸足らずで注文受けではなく将棋盤を作ったのではと思われます。
将棋盤に盤覆いと駒台に駒台収納箱までも総てカヤ材が用いられ蝋磨き仕上げとなり、駒台の天面は将棋盤と同じ材が用いられています。細部に渡り丁寧で手間隙を惜しまずに作られた平井芳松会心の作でしょう。
平井芳松と言えば猫脚組立碁盤が有名ですが、本作の駒台(天面11.3×11.3cm)(高さ19.5cm)も猫足巴脚の平井型とでも言うのでしょか独特な脚です。駒台収納箱(23.8×13.8×14.3cm)の蓋の取っ手には黒柿で作られた扇子の彫り物が取り付けられ非常に洒落た作りとなっています。
3.5寸の将棋盤は随分薄い盤だと思われるかも知れませんが、将棋本家の大橋家では将棋盤の寸法は縦一尺二寸、横一尺一寸、盤の厚さ三寸五分、脚の高さ三寸、血溜二寸五分、幅二寸、深さ一寸と定められています。
本作は大橋家の定める寸法にピッタリと仕立てられており、江戸時代から昭和初期はこの将棋盤サイズが対局用の公式サイズです。
脚型は平井が碁盤で用いられる脚型とは違い古い形の脚形で括れの無い一重ビラです、オオイレの作りは流石に丁寧ですが脚の臍彫りには回転ドリルが用いられており、脚のサイズも全体の大きさに合わせて碁盤より小さな作りとなります。
天面の漆はかなり太い漆で、名人平井が得意とした筆盛りによる目盛です。
揮毫はお決まりの大入れと盤覆いに駒台収納箱にあり、発注販売先は書かれていません。