大正十一年八月製作の四.四寸将棋盤
縦36.8cm横33cm厚さ13.3cm足高10cm(縦一尺二寸、横一尺一寸、厚さ四.四寸、足高三.三寸)
平井芳松の将棋盤はそもそも非常に珍しい作品で、しかも四.四寸の榧の四方柾の将棋盤は、平井芳松の作品の中では一級品であります。
しかも、平井芳松の組み立て式脚の駒台に豊島作の古い董斎書の駒が揃っております、残念ながら駒台用の収納箱はありませんでしたが、保存状態も大変に良く九十年の歳月を忘れる程です。
もちろん、平井芳松の手による盤ですから百年経ても割れは勿論ヒビや反りなど一つもありません。流石に、日本一の碁盤師と誉れ高い平井芳松の作です。
もう一つの三.五寸昭和期の平井芳松の将棋盤は木裏で、脚の作りは並脚ですが、本作は高級なクリ脚で、碁盤と同様に二重ビラで、見ているだけで惚れ惚れとする脚の作りは碁盤と同様に平井独自の形です。しかし盤のサイズに合わせ碁盤よりも小型です。
オオイレには平井芳松の揮毫が入っていますが、地元大阪の碁盤店経由にて大正十一年八月となっており、ごばん師、平井芳松作と記入され、血溜りには四方柾と記されています。血溜りや脚の形だけでも平井芳松の作品と判断できる素晴らしい作品です。
四方柾の盤が最高級とよくいわれます、しかし、本当は四方柾は追柾の一種で材としては一級品ではありませんが、今日では四方柾が一番好まれる木取りで、高級品とされます。
また、近年はアテの在る盤が好まれる傾向にありますが、大正の頃はアテの無い部分が最高級材とされていたようです。
よく四方柾は縁起が良いといわれますが、縁起の良いのは四方木口で、盤の天面に対して斜め45度に木目が走る木取りをした盤で四方の面が柾木口となります、四方が口となり食べるに困らない事から縁起が良いとされています。しかし木目が斜めに走り見難いのが難点で今日ではほとんど作られる事はありません。
平井芳松と言えば組み立て式猫足碁盤で有名ですが、本作の駒台も組み立て式の脚で四本の足を内側からスライドしてはめ込む細工が施され「イロハニ」「オクヤマ」のいろは歌で相手を区別しており、榧材が用いられています。
ホゾ加工は長年の使用により磨り減りや欠けが見られ 、実際に組み立てて使用してみるとグラグラして少々使用に耐えません、後年の昭和期の駒台が組み立て式ではないのもそんな理由からでしょう。
天面の漆線は古くから「平井、筆盛」「前沢、ヘラ盛」と言われ、平井が得意とする筆盛と思われる太線で、見事に均一に盛られており平井の漆盛の技量の高さも相当高く、まさに見事です、昨今の太刀盛りとは趣きが違い、画像からも解ると思います。
天面は打ち傷が見られますが升目の漆は減りも欠けも見られません。
セットになっていた駒は共に大正11年頃の同時期の古い董斎書の豊島作品で良く飴色に育った駒ですが、盤も負けず劣らず飴色に育っています。